創業時の資金調達
創業時に資金がちょっと心もとない、手持ち資金がもう少しあればスピードが上がるはず、手持ち資金は保険として取っておいて別に資金を用意したい、起業に際してこのような不安を抱えている方は多いのではないでしょうか。
今、日本は国策として起業を応援しようということになっています。それは融資、助成金、その他の人的物的サポートを見ると確かに感じることができます。
ただし、制度として用意されていても実際には審査に落ちました、という話はよく聞く話です。日本政策金融公庫も保証協会付きの制度融資も一度審査を受けてしまうと半年開けないと次の審査に申し込むことができません。創業のタイミングで半年のロスは死活問題です。申し込むのであれば「こんなはずじゃなかった」とならないようにしっかりと準備をしておく必要があります。
そして、多くの方が「できるだけ多く」「低利(低コスト)で」「低リスクで」借りたいと考えているはずです。もちろん、金額の絶対額優先(必要な資金が確定していてそれがなければスタートできないようなケース)という方もいらっしゃいますし、物的担保(ローンのない不動産等)を用意できる方もいらっしゃいます。優先順位を明確にし、譲れる条件・取れるリスクも考えておいた方が良いのは間違いありません。
さて、創業時に申し込める融資は
1、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」(以下、「公庫融資」と呼びます)*1
2、保証協会付きの地方自治体が用意している「制度融資」(ex.船橋市、千葉県)*2
の2種類です。
*1.「新創業融資制度」は「新規開業資金」、「女性、若者/シニア起業家支援資金」、「新事業活動促進資金」などの特例的な制度です。
*2.制度融資には市区町村が用意するもの(exでは「船橋市」)と都道府県(exでは千葉県)が用意するものがあり、これらは手続きや条件が異なりはしますが結局のところ同じ組織(信用保証協会)が審査し保証することで融資が可能となる制度ですから1つとしてカウントします。
さて、それではこれらの融資はどのような制度になっているのでしょうか?融資制度の内容について有利不利などの視点で比較してみましょう(制度融資は弊所のある船橋市、千葉県を題材に使わせていただきます)。
日本政策金融公庫 「新創業融資制度」 | 制度融資 船橋市 | 制度融資 千葉県 | |||
一般枠 | 経験・資格枠 | ||||
1 | 要件 | ①創業の要件 新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方 | ①中小企業者等であること | ①同左 | ①同左 |
②雇用創出等の要件 雇用の創出を伴う事業を始める方、等 | ②市内で事業を開始すること | ②創業者又は創業後5年未満 の中小企業者の方 | ②先のうち以下の要件に該当し、かつ2500万円を超える資金を必要とする方 | ||
③自己資金要件 創業資金総額の10分の1(融資申込額は自己資金の9倍までということ)、ただし例外あり | ③申込人および連帯保証人が市区 町村民税を滞納していないこと | ・同一企業に継続して3年以上、または同一業種の企業に5年以上勤務し、独立して同一業種の事業を創業 | |||
④千葉県信用保証協会の信用保証が 受けられること | ・法律に基づく資格を取得したもので、その資格を生かして新たな事業を創業 | ||||
⑤事業を開始しているものは、開始 後5年を経過していないもの | |||||
⑥経営者の経験がないもの | |||||
⑦原則として創業して1年以内のもの は、市で行う経営相談を受けること | |||||
2 | 資金使途 | 事業開始時または事業開始後に必要となる事業資金 | 設備資金、運転資金 | 設備資金、運転資金 | 設備資金 |
3 | 限度額 | 3,000万円(うち運転資金1,500万円) | 1,500万円(設備資金は所要資金の90%以内) | 2,500万円(例外あり) | 5,000万円(例外あり) |
4 | 返済期間 | 各種融資制度で定める返済期間内(新創業融資は「新規開業資金」他の融資制度の特例措置で、担保以外の条件は当該融資制度に従うことになります。) | 設備資金7年以内 運転資金5年以内 一括償還11か月以内 | 設備資金7年以内 運転資金5年以内 | 設備資金7年以内 |
5 | 利率 | 基準利率2.26%~2.75%(返済期間、担保の有無等で変化します。) | 1.8%~2.3%(ex.5年-2.2%、7年-2.3%) | 1%~1.7%(固定金利) (ex.5年-1.5%、7年-1.7%) | 同左 |
6 | 担保等 | 原則不要 | 創業又は創業等関連保証 保証料率年0.8% 法人代表者以外原則不要 | 協会保証 年0.45~1.9% 法人代表者以外原則不要 |
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7 | 利子補給 | 原則なし、市区町村からの補給がある場合がある | 0.02 | ||
8 | 保証料補給 | 保証協会が決定した保証料の保証料率が1.35%を超えた場合、決定保証料率から1.35%を減じて算定した額を補給 | |||
※創業支援資金および特定中小企業者対策資金は一定料率0.8%以下 | |||||
※船橋市の創業支援事業計画に位置付けられた特定創業支援事業を修了し市から証明書の交付を受けた事業者の創業支援資金についての保証料は全額補給。 | |||||
まず、「1、要件」についてです。
要件は該当することが大事でそこに有利不利はなさそうなのですが、「自己資金」については要件化されている公庫融資、要件化されていない制度融資という違いがあります(融資額が大きくなれば自己資金要件が課されます)。自己資金はとても大事な要素でして公庫の場合創業資金額(必要資金)の1/10を自己資金として持っていないと審査してもらえないことになります。一方、制度融資にはこの要件がなく、手元資金がなくても申し込みはできることになりますから、どちらが有利かといえば制度融資でしょう(ただし、結局のところ自己資金がほとんどない状態では融資を勝ち取るのは難しいです)。
「2、資金使途」
ここは変わりがないですね。基本的には設備資金と運転資金に使えますよということです(千葉県制度融資の経験・資格枠が設備資金のみ)。ただ、実際にはもう少し細かい縛りがあります。「土地は買えません」、とかですね。
「3、融資限度額」
一目瞭然で違いがあります。ただし、実際には公庫融資(無担保・無保証)で1000万円という金額はかなり難しいです。また県の制度融資の「例外あり」の部分は、認定特定創業支援(市町村等が実施する創業に係る継続的な支援を受けると融資枠が500万円追加されるという内容なのですが、事前準備が必要なことと、高額融資をいただくためには結局のところ自己資金が求められます。なお、認定特定創業支援は会社設立にかかる登録免許税が安くなったり、創業に際して助成金をいただけたりしますので要チェックです。ここでの有利不利は、無担保無保証に重きを置くか、融資上限に重きを置くかで決まってくるのだと思います。
「4、返済期間」
こちらも特に絶対的なルールがあるわけではないですが、運転5年設備7年となることが多く、公庫も制度融資もあまり違いはないといえます。
「5、利率」
表面的な利率は公庫の方が若干高いです。制度融資は船橋市は利子補給がありますし、実質負担は0.2%~0.3%/年となってますからさすがに差があります。千葉県制度融資も公庫よりは安いですが利子補給がありません。公庫融資にも原則的には利子補給はありません。ただし、船橋市で事業を始めるのであれば手続きさえとれば公庫融資についても利子補給が受けられるという制度(補給率は年0.5%または融資金利(年利)の2分の1のどちらか低い利率で、補給期間は5年以内となります。)もあり、制度融資の優位性は揺るがないものの、その差は縮まっています。
「6、担保・保証人」
公庫は原則担保も保証人も不要です。ただし、限度額が3000万円であるのに対し、担保保証人不要の枠は1000万円までです。それに対し、制度融資は市も県も法人であれば代表者が連帯保証人になります。これは大きなリスクの差だといえると思います。ただし、制度融資は、金融機関の審査、千葉県信用保証協会の審査を受け、審査に通れば保証料をお支払いして保証をお願いする必要があるのですが、その「保証」があるからこそ金融機関はお金を貸しやすくなります(他の融資制度では100%保証ではないのですが、創業融資では保証協会が100%保証してくれますので、金融機関のリスクは実質ゼロです)。もっとも、保証協会の審査基準が緩くなるわけがないですから、公庫・・・無担保・・・審査基準が厳しい、制度融資・・・100%保証・・・審査基準が緩い、なんていう構図にはなっていません。
「7、利子補給、8、保証料補給」
船橋市の制度融資が圧倒的に有利です。ついで船橋市の場合は日本政策金融公庫からの新創業融資制度についても利子補給を行うことになっており、その場合は2番目に新創業融資制度が有利になります。最後に県の制度融資という順になります。
ここまでが、融資制度そのものの比較になります。
ここまで書いておいていうのもなんだかおかしな話ですが、制度の比較はあくまでも特徴を理解する為のものなんだと思います。
例えば、「船橋市の審査は通らない。千葉県の審査は通りそう。」仮にそのような状況があったとします。その場合に千葉県の制度融資は条件が悪いから融資を受けない、と判断する方はいらっしゃらないと思います。大事なことは、必要だと考えている金額を確実に手元に持ってくるということなのですから。
制度を知る意味は、創業時に少しでも事業に使えるお金と時間を確保することに役立つ、という程度だと思っています。
むしろ、事業を立ち上げる入口にこの融資に向けて努力する意義は、これから始めようとする事業を定量的・定性的に評価し、いかに将来性のある事業であるか、そしてその成功を確実にするためのリソース・ポテンシャルを持っているのか、を融資担当者に理解してもらい信じてもら得るような資料を作っていくことにあります。その準備・手続き・資料作りなどについてはまたあらためて書かせていただきます。
創業に関する相談窓口は、県、市、保証協会などにも設置されています(用意されているセミナーなどを受講すると特典がいただけたりします)。ちょっとハードルが高い、あるいはそういうところに行く前に情報を収集したい、話を聞きたいという方、是非一度お話しをお聞かせください。