税制改正要望ってご存知ですか?
夏休みが終わるころ、私たちの業界では来年度以降の税金に関する大まかな変化が分かる資料が出てきます。
それが、各省庁が提出する「税制改正要望」(「平成31年度税制改正要望」はこちら⇒https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2019/index.htm)というものになります。
今年も各省庁から合計150もの「あ~したい」「こ~したい」という要望が上がっているようです。
150といっても中身をよく見てみると現在の制度の「適用期限の延長」であったり「制度の拡充」であったり、特定の制度の「検討」を要望するものであったりと、新しい税制の創設を要望するものは限られています。
その中でも気になるものをいくつかピックアップして紹介したいと思います。
医療に係る消費税問題の抜本的な解決に向けた新たな措置
厚生労働省による要望の一つです(要望事項全文⇒https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2019/request/mhlw/31y_mhlw_k_03.pdf)。
こちらがなぜ気になるのかといえば、、、国の税収や医療機関の利用者にインパクトが大きそうですし、何よりも医療機関そのものに与えるインパクトが大きくなることが予想されるからです。
医療費(診療報酬にかかる収入(窓口分も請求分も))は消費税非課税・・・これは消費税制度が創設されたときからのルールなのですが、実際にどうなっているかというと、医療機関が得る収入は窓口で患者様から頂く自己負担分(1~3割)と保険者への請求分(7~10割)の合計額となっていて、消費税非課税ですから収入には消費税が含まれません。
では経費に関する支払いについてはどうかといえば、相手は通常の事業者ですから医療にかかる消耗品の購入も、高額な医療機器の購入も、ひいては医療機関の建物を建築する場合でさえ、ちゃんと消費税を支払っています。
消費税の納税の仕組みは、売上に際して預かった消費税から経費支払いに際して支払った消費税を差し引いて差額が出れば国に納付するという流れなのですが、医療機関の場合はあずかる消費税がないのに支払う消費税は多額になり、消費税申告時の計算のルールに従って計算をするとどうしても医療機関自体が「割(わり)を食う」形になってしまいます。
税率が上がること、今後は医療需要はさらに増加する見込みであることを考えていくと、2年おきの診療報酬改定で税率の上昇分を医療機関に分配できるように配慮するやり方ではうまくいかなくなると予想されています。つまり医療機関が消費税問題で苦しみ続けるということが予想されているわけです。
これを何とかしなければならないということでこの改正要望が上がってきているのですが、これまではすぐに良い案が出る気配はまったくありませんでした。
なぜなら、この手の要望は平成9、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30 年度の税制改正要望でも挙げられていたからです。
ところが今回はちょっと注目してます。直近の平成30年税制改要望と比較してみると、、、
<平成30年税制改正要望>医療に係る消費税等の税制のあり方について、消費税率が 10%に引き上げられるまでに、抜本的な解決に向けて適切な措置を講ずることができるよう、税制上の措置について、医療保険制度における手当のあり方の検討等とあわせて、医療関係者、保険者等の意見、特に高額な設備投資にかかる負担が大きいとの指摘等も踏まえ、平成 30 年度税制改正に際し、総合的に検討し、結論を得る。 <平成31年税制改正要望>医療に係る消費税等の税制のあり方については、医療保険制度における手当のあり方の検討等とあわせて、医療関係者、保険者等の意見、特に高額な設備投資にかかる負担が大きいとの指摘等も踏まえ、医療機関の仕入れ税額の負担及び患者等の負担に十分に配慮し、関係者の負担の公平性、透明性を確保しつつ検討を行い、平成 31 年度税制改正に際し、この税制上の問題の抜本的な解決に向けて、個別の医療機関等の補てんの過不足について、新たな措置を講ずる。実際のところは今年の12月にでるであろう税制改正大綱を待たねばなりませんが、要望事項の1頁目にある選択肢「新設・拡充・延長」のうち「新設」が選ばれていること、「検討し結論を得る」から「新たな措置を講ずる」こととされたことが実現されるのであれば、何らかの措置が法案となって次期国会に提出されるはずです。
題名のごとく「抜本的な解決案」を楽しみにして待ちたいと思っています。
車体課税の抜本的見直し
こちらは経済産業省が提出している改正要望です(要望事項全文⇒https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2019/request/meti/31y_meti_k_15.pdf)。
簡単に言えば、「自動車重量税の現行制度を抜本的に変えます!!」という内容ですね。
自動車重量税の創設時から経緯はこちらに詳しいですが(http://www.jaf.or.jp/profile/report/youbou/jaf_tax/#chapter2)、JAFがここまで書いてしまっているくらいですからね。
ある意味見直されて当然で、むしろ遅すぎたのかもしれません。
ちなみに、自動車取得税については消費税率10%が導入されると廃止されることが決まっています。消費税率がなかなか10%に上がらないのでこちらの廃止もスライドして延び延びになってきていましたが、来年こそは廃止になるはずなのですが、、、(取得税と消費税の増税分はほぼ同額ですから、負担が減るわけではないのですが・・・)。
この「車体課税の抜本的見直し」に関する要望書は他の要望書が1~5頁程度のものが多い中で、10頁もの紙幅を使って作成されており、意気込みが伝わってくるものになっています。
エコカー減税、グリーン化特例(車体課税のグリーン化)と複雑化していた自動車税制が少しでも分かりやすくなって、納税者にとって納得感のある税制になってくれることを願っています。
国税関係帳簿書類の保存の電子化に係る制度及び運用に係る所要の整備
申告・納税等の税務手続の一層の電子化の推進等の観点から、企業等の事務負担軽減に資するよう、企業等の事務負担に直結する国税関係帳簿書類の保存の電子化について、企業等が承認を受けるための要件の見直しなど所要の整備を講ずる。分かりやすく言えば、電子帳簿保存法がまだまだ広く運用されていないから要件などを見直しますよ、というものですね。
こちらも経済産業省の改正要望です。こ
要件の見直しの内容まではこの段階ではわかりませんが、もう少し使い勝手の良いものになってくると、企業だけではなく私たちの業務も間違いなく効率化するはずです。
こちらも期待しながら待ちたいですね。
その他
子ども・子育て支援における制度の見直しに伴う税制上の所要の措置(文部科学省と厚生労働省の共同要望)
結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の拡充及び恒久化
非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度の適用に係る手続等の見直し
他にもいろいろあるのですが、ご紹介しきれないです。
面白そうだなぁと興味を持つ方はかなり少ないとは思いますが、知りたい方はこちらで確認してみてくださいね。
⇒「平成31年度税制改正要望」はこちら⇒https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2019/index.htm