不公平な税制 その3 有価証券報告書(トヨタ自動車㈱)より
今回は、日本を代表する企業であるトヨタ自動車の有価証券報告書から、不公平な税制について見ていきます。
当然ですが、あくまで税制が不公平ということで、トヨタ自動車そのものが不公平なわけではありません。
トヨタ自動車㈱ 有価証券報告書(2017年3月期・2018年3月期、単体)
金融庁のEDINETで上場会社の有価証券報告書を見ることが出来ます。
金額の単位は百万円です。
自 2016年4月 1日 至 2017年3月31日 | 自 2017年4月 1日 至 2018年3月31日 |
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売上高 | 11,476,343 | 12,201,443 |
売上原価 | 9,164,838 | 9,599,363 |
売上総利益 | 2,311,505 | 2,602,080 |
販売費及び一般管理費 | 1,474,301 | 1,344,536 |
営業利益 | 837,204 | 1,257,543 |
営業外収益 | ||
受取利息 | 43,216 | 61,375 |
受取配当金 | 770,291 | 802,702 |
その他 | 193,060 | 155,378 |
営業外収益合計 | 1,006,567 | 1,019,456 |
営業外費用 | ||
支払利息 | 5,994 | 5,884 |
その他 | 36,040 | 32,974 |
営業外費用合計 | 42,035 | 38,859 |
経常利益 | 1,801,736 | 2,238,140 |
税引前当期純利益 | 1,801,736 | 2,238,140 |
法人税、住民税及び事業税 | 305,000 | 404,900 |
法人税等調整額 | △33,174 | △26,072 |
法人税等合計 | 271,825 | 378827 |
当期純利益 | 1,529,911 | 1,859,312 |
トヨタ自動車の2017年3月期を見ますと売上高は11,476,343百万円(約11兆)、
2018年3月期を見ますと12,201,443百万円(約12兆)となっています。
税引前当期純利益はそれぞれ2017年が1,801,736百万円(約1兆8千億)、2018年が2,238,140百万円(約2兆2千億)となっています。
また、法人税等合計は2017年が271,825百万円(約2,700億)、2018年が378,827百万円(約3,700億)となっています。
つまり、法人税負担率は、2017年が15.08%で、2018年が16.92%ということが分かります。
ちなみに、2017年3月期、2018年3月期の大企業の法定実効税率は30.86%(東京都)です。
税率差異
税引前当期純利益に法定実効税率をかけて計算した法人税額と、実際の法人税の負担額との間には差異が出ます。これは、会計上の利益と法人税計算上の利益の考え方が異なるためです。
例えば、交際費の損金不算入というものは、法人税計算上のみ出てくる考え方です。会計上では交際費は全額経費としてカウントしますので、その分利益は下がり、想定される税額も下がります。
ところが、法人税の計算上は大法人の場合、1円も経費としてカウントしませんので、実際の税負担は想定より高くなることになります。
前回の受取配当等の益金不算入はこの逆パターンですので、実際の税負担率は実効税率より低くなるということになります。
これらの税制を適用することにより実際の法人税負担率と法定実効税率とに差異が発生するのですが、この差異を税率差異と言います。
この税率差異が有価証券報告書に記載されています。
2017年3月期 | 2018年3月期 | |
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法定実効税率(調整) | 30.3% | 30.3% |
交際費等永久に損金に算入されない項目 | 0.1% | 0.1% |
受取配当金等永久に益金に算入されない項目 | △11.5% | △9.7% |
外国源泉税 | 1.5% | 1.1% |
試験研究費税額控除 | △4.6% | △3.5% |
外国税額控除 | △0.2% | △0.2% |
評価性引当額 | 0.0% | 0.0% |
その他 | △0.5% | △0.8% |
税効果会計適用後の法人税等の負担率 | 15.1% | 16.9% |
法人税の負担軽減額
税引前当期純利益に先ほどの税率差異の表の一番下のパーセンテージをかけますと、法人税等合計とほぼ一致します。
つまり、税引前当期純利益に税率差異の内訳の各項目のパーセンテージをかければ、法人税の負担がそれぞれいくら軽減しているのかが分かります。
差異の主なものとして次の2つがあります。
・受取配当等の益金不算入
2017年 1,801,736百万円×△11.5%=△207,199,640,000円
2018年 2,238,140百万円×△9.7%=△217,099,580,000円
・試験研究費の税額控除
2017年 1,801,736百万円×△4.6%=△82,879,856,000円
2018年 2,238,140百万円×△3.5%=△78,334,900,000円
受取配当等の益金不算入については約2,000億円、試験研究費の税額控除については、約800億円の法人税の負担が軽減されている、ということです。
まとめ
よく法人税の減税理由として、国際競争力を高めるため、と聞きますが、これは「誰の国際競争力」を言っているのでしょうか。
法人税は日本国内の全法人にかかってきます。(普通法人を前提とします)
ところが、前回見ましたように、上記のような受取配当等の益金不算入や試験研究費の税額控除による恩恵は全法人が一様に受けられているものではありません。
そうしますと、これらの法人税の軽減制度は一部の企業に恩恵を与えるための税制ということになります。
つまり、「日本企業の国際競争力」ではなく、「一部の企業の国際競争力」を高めるための制度、ということになります。
元々そういうことで制定しているのであれば、そのように発表してほしいものです。
現状の国の予算として、法人税収含むその他の税収がいくらと想定されているわけですが、その金額をどのように賄い、どのような支出に充てるかということについて、上記のような制度があることにより、上記の制度を適用できない大多数の企業・個人が、その減収分を補うための消費税や社会保険など他の増税分を、恩恵を受けている法人のために負担している、と言えるのではないでしょうか。
つまり、偏っている制度なのであればそれは廃止し、その増収分は法人全体が恩恵を受けられる軽減制度を創設することによって、想定されている予算に合うような税収とすれば、「日本企業の国際競争力」を高めることが出来るのではないでしょうか。
担税力のある大企業には負担を大きく、担税力の小さい中小企業には負担を小さくする、所得税と同様少なくとも累進課税とすることで憲法が要請する公平性をようやく一部保てると言えると思います。(所得税の累進課税にも穴があり、それはまた別の機会にお話しします。)
そもそも租税は富の再分配機能が要請されているわけですが、全国民に一律にかかるような消費税による増収では、間違いなくその機能は果たせないでしょう。